大原と大原野 ー多い類似点ー 1
近頃、妙なことに気が付きました。(と言うと大袈裟ですが)
ブログ記事を書く時に、しばしば京都の地誌に関する書物を参考にしています。
そうした折に目に付いたのですが、洛北の「大原」と洛西の「大原野」は、地名自体が大変よく似通っているだけでなく、和歌に詠み込まれた景物にも同名のものがあるのです。
ちなみに、古刹の名称も似通っています。大原には「魚山大原寺勝林院(天台宗)」が、大原野には「小塩山大原院勝持寺(天台宗)」があって、ともに「大原」が付いています。
こうした不思議な一致に引かれて、風流韻事には全く縁遠い野暮天の小生なのですが、少し調べてみた結果を記事にしてみました。
1. 大原と大原野の概略
大原は京都の北郊(洛北)にあります。周囲を山に囲まれた大原川(高野川の上流)沿いの盆地に位置しています。昔の大原は、「炭𥧄の里」という別称もあった製炭地で、炭のほか薪・柴など燃料を都に供給することを生業とする里でした。
《大原川》
高野川の上流域で八瀬以北を大原川と言い、この川沿いの小盆地が大原です。
平安朝の昔から建礼門院平徳子を初め貴顕が隠棲した地であり、鴨長明が籠居したことでも知られ、その風光は多くの歌人に詠われてきました。大原は現在も著名観光地の一つです。
かつて「大原」は、「オハラ」と読み、古くは「小原」「小原口」と記されたこともあったようです。ただし、和歌には「大原(オホハラ)」と詠まれました。
大原野は京都の西郊(洛西)にあります。小塩山(大原山)を背負う西高東低の広い段丘地は長閑にして素朴な風光で、古代には狩猟・遊宴の地であり、桓武天皇がたびたび狩猟をおこない皇族や貴族も宴遊しています。
《西山連峰》
西山山系の小塩山東麓になだらかに開けた傾斜地で眠気を催すような光景です。
山野の風光とともに大原野神社をはじめ多くの寺院が建立されており、西行法師など多くの歌人が隠棲した。鄙びた田園であり洛北大原ほどには俗化していません。
かつての大原野は、「オハラノ」と称されたが、「オオハラノ」の呼称も用いられていました。この大原野も、和歌では洛北と同じように「大原(オホハラ)」と詠まれました。
このように、大原と大原野のどちらも、地名を和歌に詠むときは「大原(おおはら)」と表現されたのです。
そうすると、同名のものが歌に詠まれているとき、洛北・洛西どちらの大原なのか混同されるるため、詞書(ことばがき)や詠み合わせる景物により識別されました。
洛北の「大原」を表す景物: 炭𥧄(ノ里)、朧ノ清水、芹生ノ里、比良、高根など
炭がまのたなびく煙ひとすぢに心ぼそきは大原の里 寂然
水草ゐし朧の清水底すみて心に月のかけはうかふや 素意法師
洛西の「大原野」を表す景物: 小鹽山、清和井ノ水、冴野ノ沼、庭火、野辺ノ行幸など
おほはらや小鹽の山の小松原はや木高かれ千代の影みむ 紀貫之
おしほ山松風さむし大原やさえ野の沼やさえまさるらむ 中務
そして、こんな事があってよいものか、驚いた事には山や清水までも同名のものがあるのです。
次回では、その幾つか見てみましょう。
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