儚くも消えた聚楽城 2の2
2. 聚楽第の築かれた場所と規模は?
聚楽第の四囲・規模と構造については、記録が残っておらず確かなことは判らないため、諸説があるようです。
それらは、いずれも北限を一条通とする点ではほぼ共通していますが、その他はばらついています。
① 「南北は一條より二條迄 東は堀川 西は内野をかぎりて城地として聚楽と號し給ふ」(『京羽二重織留』)、『雍州府志』も同じ範囲を記す。
② 「東は大宮より西は千本迄 北は一條に限り南は春日今いふ丸太町に至る」(『京町鑑』)、『菟芸泥赴』『京都坊目誌』も同じ範囲を記している。
③ 「一條の南、二條の北にして、東は大宮を限り、西は朱雀通今の千本通なり を堺とす」(『都名所図会』)としています。
④ 『洛中洛外図屏風』『駒井日記』などの文献史料と発掘調査データなどから、外堀を含めると東は大宮通、西は千本通、北は元誓願寺通、南は下立売通を範囲とする見方もあるようです。(森島康雄『聚楽第と城下町』)
松林寺(新出水通智恵光院西入南側)
松林寺の境内は周辺より低い凹地なっていて、新出水通に面した寺門を入ると、かなり低いところに本堂や墓地がある。これは、聚楽第南外堀である天秤堀の跡だとされています。
このように、聚楽第の規模について記述に違いが見られるのは、本丸と内堀以外のどこまでを含めて考えるかで大きな違いが出るようです。つまり、外堀までとするのか、あるいは周囲に設けられた諸大名の屋敷までを含めるのかによって、その範囲は変わってきます。
聚楽第の周囲、特に東側には諸大名や武家の屋敷が建ち並びました。『京都坊目誌』には、それらの人々の名前に由来するとして伝承される多くの町名が記されており、そうした町名は約25にも上っており、現代の地図でも目にすることができます。
如水町の仁丹町名表示板
黒田如水(名は官兵衛孝高)の屋敷跡であることが町名の由来とされる。
さらに、聚楽第の園池、通用門などの城郭構造、あるいは配下の武士達の組屋敷に由来するとされる町名も約30に上ります。
亀木町の仁丹町名表示板
聚楽第庭園の池に、木製の噴水用巨亀が設けられていたことが町名の由来とされる。
先に見たように、聚楽第の確かな位置と範囲は不明ですが、従来の発掘調査結果では、一条大宮の民家敷地から花崗岩の礎石、智恵光院中立売では金箔を貼った鬼瓦と軒丸瓦そして耳付き茶壺・天目茶碗、丸太町智恵光院付近で金箔軒瓦が発掘されているようです。
しかし、聚楽第跡と見られる一帯は現在では住宅密集地となっているため、従来から大規模な発掘調査おこなうことは極めて困難だったのです。
梅雨の井
『京町鑑』には「梅雨の井」の名称由来を、「清水町 此町東側中程人家の裏に井有 梅雨の井とよぶ 昔聚楽御城有し時太閤秀吉公御茶の水にし給ふ 井の深さ一丈餘梅雨の入より水井筒の上ヘ越して外へ流れわたる 因て清水町と云」と、井と町名の由来を記している。
今では井桁も無くなり、打ち込まれていた手押しの汲み上げポンプは破損しています。
ところで、2015年10月〜翌16年1月にかけて、京都府教育委会文化財保護課と京都大学防災研究所が共同して実施した調査では、地面を叩いて発生させた地震波を検知する「表面波探査」と云う手法を、考古学調査に適用しました。
これは、堀などの地盤の弱い所では、地震波の伝わり方が遅くなる性質を利用することにより、地下の遺構を探るというものだそうです。そして、この方法で道路沿いに44地点約5,400mにわたって探査しました。
その結果、本丸などの外側、東・西・北の三方に5つの外堀があったとみられ、南側からは検出されなかったというのです。
この探査結果から、聚楽第の範囲は東西が約760m・南北が約800m以上となって、従来考えられていたよりも約1.6倍に広がる見込みであることから、やはり単なる公邸にとどまるものではなく、天守や外堀を備えた城郭であったとみられるそうです。
こうしたことから、単なる政庁を兼ねた邸宅といったものではなく、秀次が聚楽第を譲り受けたあとで、軍事拠点としての城郭構築を企図していた可能性が見て取れる結果が出たようなのです。
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