京都盆地の地下水
浅田次郎『壬生義士伝』に、京都の気象特性に付いて、ちょっと大袈裟のように思えますが次のように書いています。
「京都の夏の茹だるような暑さっての、旦那、知ってるかい。
口で言ったってわかりゃすめえが、知らねえんなら教(おせ)えてやろう。
夕方になると風が死んじまって、そのうち湿った夜がやってくる。まるで町じゅうが沼の底に沈んじまってるような、べっとりとした闇さ。
じっとしていたって汗が滲み出てきやがる。麻の着物は潮を吹く。刀はしじゅう打粉を打って、油を引き直しておかなけりゃ、たちまち錆が出る。
考えてみりゃァ、夏はそんなふうに暑く、冬は冬でしんしんと底冷えのするあんな土地に、よくもまあ千年も都があったもんだ。まあ、その千年のどん詰まりに、俺たちァ何の因果か居合わせちまったんだがね。」
底冷えが卓の四脚を匍ひあがる 富安風生
京都盆地の気象の特性としては、内陸性気候の特徴である気温の変動幅(1日の最高・最低気温の差や夏・冬の気温差)が大きい点があげられます。もっとも、近年は人口の集中する都市部ではどことも共通する変化として、都市気候の特徴である高温化(ヒートアイランド現象)が進んではいるようですが。
ともあれ、京都の真夏の心まで滅入る蒸し暑さと真冬の底冷えは、昔から京都人の日常生活に少なからぬ支障をもたらしてきました。
ところで、盆地というのは地形的に地下水が豊富に存在するのですが、京都盆地はことに豊富なのだそうです。そして古来、名水と称される井戸が各所にあります。
染井の水 (梨木神社)
以下は、楠見晴重関西大学教授の『古都に眠る千年の地下水脈 ー悠久の雅を支える地下水ー』に拠っています。
京都盆地は南北が約33km、東西は約12kmの縦長の形をしています。その地質は上から、約3万年前に薄く堆積した沖積層、約150〜500万年前に堆積した洪積層、1億〜1億5千万年前に堆積した岩盤の古生層が分布しているそうです。そして、地下水は沖積層と洪積層の砂礫層に多く包蔵されています。
京都盆地の中で地下水を貯めている岩盤までの一番深い場所は、巨椋池付近で深さ約800m。(小椋池は、昭和16年まで宇治市・久御山町・京都市伏見区にかけて存在した。当時、京都府の淡水湖では最大の面積だったが、戦時中に食料増産のため干拓されて消滅した)
一方、盆地に入ってきた地下水の流れ出るところは、桂川・宇治川・木津川が合流する天王山(大山崎町)と男山(八幡市)の間の1カ所だけで、ここの幅は約1kmで岩盤(古生層)は地下30mのところにある。したがって、京都盆地全体が天然の水瓶・巨大地下ダムになっているということです。
そして、諸データをもとに推計される京都盆地の地下水の量は、約211億トンとなるそうです。琵琶湖の貯水量が約270億トンですからこれに匹敵する水量が、京都盆地の地下に貯留していることになります。
京都盆地での伝統的な文化や産業は地下水の利用が盛んで、酒造り・豆腐や湯葉作り・友禅・茶道・飲食業などに加えて、上水道・農業・工業と幅広い需要があります。
この地下水は岩盤の上の砂礫層に貯まっているのですが、その地下水の全てが利用できるというわけではないようです。
なぜなら、深井戸で地下水をどんどん汲み上げていけば、地表付近の汚染された水が地下深くへと浸透していくため、深井戸の水までが汚染されていくと言うことになります。なので、やはり地下水は計画的な利用が求められると言うことなのでしょう。
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