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2020年11月20日 (金)

ほんやら洞 ー伝説となった喫茶店ー

 つげ義春が1968年(昭和43)6月『ガロ』に発表した短編漫画の『ほんやら洞のべんさん』は、冬の新潟県小千谷を舞台にした作品ですが、この漫画に因んで「ほんやら洞」と名付けられた、知る人ぞ知ると言った喫茶店がかつて、京都市上京区今出川通寺町西入にありました。

《ほんやら洞》と《かまくら》
 新潟県魚沼地方は「ほんやら洞」、秋田県横手地方では「かまくら」と言われる雪洞を造り、水神様をお祀りして豊作を祈願する小正月の行事があります。「ほんやら洞」は「かまくら」を小さくしたようなものです。

ほんやら洞(写真は新潟県の小千谷観光協会提供) 
Photo_20201113093401
かまくら(写真は秋田県横手市観光おもてなし課の提供)
Photo_20201113101301
 喫茶店ほんやら洞は、1972年(昭和47)フォークシンガー、詩人、写真家、大学教員、研究者などの文化人によって創業された店でした。けれども、2015年(平成27)1月16日に発生した原因不明の火災で全焼して閉店したため、伝説の喫茶店となってしまいました。(今、その跡地は普通の民家になっています)
 その外観は古びた板壁・入り口のドアや窓枠も木というもので、ポスターやフライヤーが貼られており、店の外から窓越しにチラッと見える内部は、大学の部室のように見えなくもない雰囲気の店でした。
 私も何度となくほんやら洞の前を通り過ぎたことがありました。ところが、自分の年齢などがどうも店の雰囲気とは不釣り合いに思われ、何となく敷居が高く感じられてついぞ入ったことはありませんでした。そしてその後、いつとはなしにほんやら洞の存在が気にならないまま時が過ぎて、焼失したことを新聞やテレビで知るまで忘れていました。

 ほんやら洞に縁のある著名人を含む約70人の人々が、ほんやら洞をめぐる思い出や想いを執筆・寄稿して、2016年4月に『追憶のほんやら洞』(風媒社)が刊行されています。これはその時代を知ることのできる資料としても面白く貴重なものです。

 同書によると内部は一階が喫茶店、二階は壁面が図書棚でライブ・自作詩の朗読・美術家の個展・講演会や会議など文化活動のための多目的スペースになっていたようです。
 そして普通の喫茶店と違うのは、往時の「ほんやら洞」は様々なジャンルの人々が行き交う交差点のようで、そのトランスナショナルな空間は新しい文化の発信拠点ともなっていて、店そのものがサブカルの申し子といった感じだったようです。

 そんな「ほんやら洞」の特異さは、店の誕生前後の時代的・社会的背景が大きく影響しているようです。
 日本は1945年(昭和20)の敗戦による社会的・経済的な混乱期を経て、高度経済成長の始まりとなった1954年(昭和30)から’57年にかけての神武景気と呼ばれた好景気による復興ぶりを、1956年(昭和31)版の経済白書は「もはや『戦後』ではない」と記していました。
 さらに、1958年(昭和33年)から’61年(昭和36)にかけての岩戸景気は、神武景気をも上回る好況となりました。

 しかしそうした一方で、日米安全保障条約(安保条約)の調印をめぐる安保闘争(’59〜60、’70年)、全国の大学で起こった大学闘争(’68〜69年)、ベトナム反戦運動(’65〜74年)、公害や環境問題の解決を求める運動など国民的な運動の盛り上がりを通じて、共産党などの既成左翼に反発して特定の政治信条にとらわれないリベラルな考え方に共感する人々が増えていきます。
 こうした動きの中で既存の価値観に対抗して権力に異議を申し立てるムーブメントが活発となり、政治が市民に身近なものとなって市民権運動も成長していきました。

 そうした運動・変化の中でも大学闘争以降の主要な担い手となったのは、戦後の1947〜49年(昭和22〜24)に生まれた第一次ベビーブーム、のちに「団塊の世代」と呼ばれる世代でした。
 そして、60年代カウンターカルチャーの雰囲気がまだ色濃く残る1972年(昭和47)に喫茶店「ほんやら洞」は誕生して、関西フォークの拠点、反原発運動・環境保護運動などに取り組む人々の活動拠点ともなっていました。




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