京都の住所表示 ーその明快さー
去る5月2日、京都市内の繁華街でブランド腕時計買取り販売店に強盗が入り、ハンマーでショウケースを叩き割り時計が盗まれるという事件がありました。この荒っぽい犯行で盗まれたのは高級腕時計約50点、被害額は数千万円ということでした。
強盗に押し入られて被害に遭った店の所在地は、朝日新聞京都版の記事では「中京区手洗水町」とありました。最近ではどの新聞もこのような表記方法を採っているようです。
ところが、京都に生まれ育った私達でもこのように町名表記だけに省略されてしまうと、そこがどの辺りなのかもう一つよく判りません。
何かと忙しない現代社会にあって、まどろっこしい表記方法はやめて簡略化しているのでしょうか? 根っからの京都人であれば、このように不親切な表現はしません。
手洗水町の町域は烏丸通に面する両側、蛸薬師通と錦小路通の間を占める町です。
そして強盗に入られた店舗は、烏丸蛸薬師の交差点南東角のビル1階にあり、店が公称する所在地は「京都市中京区手洗水町646−2 烏丸第三スタービル」となっています。
元々の京都人であれば、このような位置関係にある場所は次のように表記します。これを京都方式とでもしておきましょう。
「京都市中京区烏丸通蛸薬師下ル手洗水町642-2 烏丸第三スタービル」となります。
このように表記することで、手洗水町は烏丸通蛸薬師の交差点の南にあることが分かります。
いわゆる旧市内(現在の京都市内中心部)では、◯◯通◯◯上ル、◯◯通◯◯下ル、◯◯通◯◯東入、◯◯通◯◯西入とした後に町名を表記することで、通りと通りの交わる所(交差点)を基点として、どちらの方向なのかが判るのです。このような形式の表記は室町時代の末期に始まるようです。
なお、「上ル」は北方へ行く、「下ル」は南方に行くことを意味しています。「東入」と「西入」は言うまでも無いでしょう。
下京区鍵屋町の仁丹町名表示板
この「鍵屋町」のケースでそれを見ると、若宮通と正面通との交差点より南側に位置していることが判ります。
ちなみに、京都では同一の行政区内に同じ名称の町名が複数あることが珍しくありません。
例えば、上京区の亀屋町、下京区の鍵屋町などは、同じ町名が四つもあります。このため、下京区鍵屋町だけではどこの鍵屋町なのか判らないのです。
極端なケースでは、下京区の万寿寺通には堅田町というのが四つ、中京区では夷川通に泉町が四つ、いずれも僅か200メートル余りの間にひしめくように存在しています。
なので、京都の場合は周辺部の地域は別として、旧市内と称されることもある中心部では住所地や所在地を表すとき、「行政区名+町名」だけで要をなさないことがあるのです。
したがって、京都方式の住所表記は長くて面倒といえば面倒です。しかし、目指す地点がどこにあるのかを明瞭に認識できるという点では、親切で丁寧な良さがあるのです。