ヤキモチは怖いという話 その2
紫野十二坊町の「歯ノ地蔵尊」
市バス「千本鞍馬口」南行き停留所のそばにあります。
地蔵堂の脇にある「由緒書き」が面白いので、長いのですが全文を記しておきます。
その昔、鞍馬口通には小川が流れていた。金閣寺北の鏡石あたりから折れた紙屋川の支流で、上にのぼって流れる(注1)。いわゆる”逆さ川”だった。そして、川にはちょうど千本通をまたいで小さな橋がかかり、たもとには一体のお地蔵さんがあった。”逆さ川”の(橋の)下におられるので、人々は”逆さ川地蔵”と呼んで親しんだ。
そんな頃のこと、近くに夫婦が住んでいた。夫は大工で、仕事一筋のマジメ人間。近所の井戸端会議でも評判で、奥さん連中も口々に誉めそやした。妻も自分には出来すぎた夫と思っていたけれど、あまり評判が良すぎるので気が気ではない。
「ひょっとして浮気でもしたら」
「いやいや、他の女性に取られるかも・・・」
心配が高じて、夫の帰宅が少しでも遅いと、出先まで迎えに出るほどの気の使いよう。
ある日、夕方から、あいにく空は一天かき曇って、しのつく雨。
「さぞ、夫が困っているのでは・・・」
妻が迎えに出ると、いましも向こうから夫が、美しい娘と相合ガサで歩いてくるではないか。
「人の気も知らないで、いまいましい!」
逆上した妻は掴みかかった。驚いたのは亭主。そのまま駆け出し、逆さ川の橋の下に逃げ込むと、お地蔵さんの陰に隠れた。
追いついた妻は、言葉より先にやにわに肩へガブリと噛みついた。
「アッ!」
よほど気が転倒していたのか、妻が夫と思っていたのは実はお地蔵さん、そのうえ、噛みついた歯はお地蔵さんの肩に食い込み、そのまま離れない。
たまたま通りかかった老僧がいて、「これはこれはお気の毒じゃ」と経文を読んで助けた。が、妻はそのまま息が絶えてしまった。
以来だれ言うとなく、逆さ川地蔵を”歯形地蔵”と呼んで、女の嫉妬を戒めたとか。また、夫の身代わりになったと言うので、歯痛治療の信仰もいつしか生まれた。
注1:「上にのぼって流れる」は、北に向かって流れることです。
ほかにも歯痛を治めてもらえる地蔵として、空豆地蔵(東山区本町新6丁目216-5大黒湯)、ぬりこべ地蔵(伏見区深草藪之内町26)、星見地蔵(上京区御前通今小路下ル西運寺)、お首地蔵(北区北野東紅梅町23-2)などがあるようです。
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